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英国銀行業界のコーポレートガバナンスの見直し、ウォーカー・レビューについて(1) 安田 正敏

2010年01月04日
昨2009年の11月26日に、英国政府によって発表された英国の銀行業界のコーポレートガバナンスの見直しの最終提案書(提案者の名前をとってウォーカー・レビューと呼びます)の重要な点は、定められた手続に取締役会が忠実に従うというだけでは、よりよいコーポレートガバナンスは期待できないとした上で、(主要なステイクホルダーの)行動の変化が要求されることを強調している点です。この提案書は、銀行のコーポレートガバナンスだけでなく一般企業のコーポレートガバナンスを考えるうえでも参考になると思いますので、今後、何回かに分けて主要な論点を紹介していきたいと思います。
英国の銀行業界のコーポレートガバナンスの見直しを行った最終提案書(提案者の名前デービッド・ウォーカー卿をとってウォーカー・レビューと呼びます)が昨2009年の11月26日に、英国政府(財務省をはじめとするいくつかの省)によって発表されました。この銀行業界のコーポレートガバナンスの見直しは、2008年のリーマン・ブラザーズの破綻に象徴される世界的な金融危機のなかで、銀行のコーポレートガバナンスがなぜ機能しなかったかという深い反省のもとに、2009年2月に、ブラウン首相が英国モルガンスタンレー社の代表であったデービッド・ウォーカー卿にその見直しを依頼したものです。そして、2009年7月に、一般の意見を求めるためのたたき台となる中間提案書を発表しています。その後、180通を越える意見書に加えて、銀行およびその他の企業の会長、CEO、取締役、社外取締役、会計および法律の専門家、小株主、消費者の代表者等との一連の議論を基にして、最終提案書の発表に至っています。また、この最終提案書は、英国の銀行だけでなく英国で営業を営む外国銀行にも適用されるため、自国のコーポレートガバナンスとどう整合性をとるかという点で、世界中の銀行の注目を集めています。

デービッド・ウォーカー卿が検討を委託された事項は次のようなものです。

すなわち英国の銀行業界のコーポレートガバナンスを次のような点について精査し、提案を行うこと:

  • リスクを効果的に管理するために、報酬制度におけるインセンティヴをどうするべきか、という点を含め、取締役会レベルでのリスク・マネジメントを如何に効果的に行うべきか
  • 英国で営業する銀行の取締役会に要求される能力、経験及び独立性のバランスをどのようにとるべきか
  • 取締役会の運営の効果性と監査、リスク、報酬及び指名委員会の実績評価
  • 企業に投資し、取締役会を監視する機関投資家の役割について
  • 英国のやり方が国際的な慣行と整合性が取れているか、英国および国際的なベスト・プラクティスをどのように普及させていくか

この最終提案書は現在、英国財務省とFSA(Financial Service Authority:金融サービス機構)をはじめとする英国政府によって、どのように実施するかを検討されているところです。
この提案書は、危機の前の銀行に対する当局の注意深い監督と規制に深刻な欠陥があったと認めた上で、銀行のコーポレートガバナンスの重大な破綻がそれに輪をかけたとしています。そのうえで、銀行に対する規制を改善しても(例えば自己資本規制の強化)、銀行のコーポレートガバナンスが機能していなければ、自由な市場の中心となる銀行の業績を確保することが出来ないという考え方を取っています。
さらに、定められた手続に取締役会が忠実に従うというだけでは、よりよいコーポレートガバナンスは期待できないとした上で、(それぞれのステイクホルダーの)行動の変化が要求されることを強調しています。つまり、会長の行動力が弱かったり、取締役会の構成が不十分で活動的でなければ、また株主の積極的関与が不十分であるか、全くなかったりした場合には、全体的により良いコーポレートガバナンスは期待できないということです(以上提案書9ページより筆者抄訳)。

昨年12月21日のこのブログの門多氏の記事で、同氏は「グローバル金融危機の教訓は自己資本規制の強化ではない」と主張していますが、ウォーカー・レビューも、自己資本規制の強化だけでは金融危機の再来を防げない、より効果的なコーポレートガバナンスの実現が必要であるという姿勢をとっています。
このウォーカー・レビューは銀行のコーポレートガバナンスだけでなく一般企業のコーポレートガバナンスを考えるうえでも参考になると思いますので、今後、何回かに分けて主要な論点を紹介していきたいと思います。

(文責:安田正敏)

なおウォーカー・レビューの原文は英国財務省のホームページの次のURLからPDFファイルでダウンロードできます。

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