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ウォーカー・レビュー(2)取締役会の機能と役割 安田 正敏

2010年01月09日
ウォーカー・レビュー最終報告書を大枠で括ると、取締役会の機能と役割、機関投資家の役割、リスク・マネジメント、報酬の4つの分野になります。今回は取締役の機能と役割の分野を紹介しますが、注目する点は、非業務執行取締役(日本の社外取締役に相当)の役割の強化と取締役会の実績について2年か3年に一度、外部評価を行うと提言している点だと思います。
ウォーカー・レビュー最終報告書を大枠で括ると、取締役会の機能と役割、機関投資家の役割、リスク・マネジメント、報酬の4つの分野になります。今回は、最初の取締役会の機能と役割について興味深い論点をいくつか紹介したいと思います。なお、この提案書は英国の銀行を主たる対象として作られていますが、実際には、その他の金融機関にも適用されるため、対象をBOFI(Banks and Other Financial Institutions:銀行及びその他の金融機関)と呼んでいます。

英国の取締役会はチェアマン、CEO、業務執行取締役(Executive Director)、上級独立取締役(SID:Senior Independent Director)及び非業務執行取締役(NED:Non-Executive Director)から成ります。SIDはNEDの中から選任されます。チェアマンも社外で非常勤です。したがって、CEOと業務執行取締役が日本の取締役にあたり、チェアマン、SID、NEDは当該会社と独立した資格を要求されるので日本または米国の社外取締役(米国ではOutside Director)に当たります。

NEDは、財務報告審議会(FRC:Financial Reporting Council)により上場企業に適用される統合規程によって「取締役会の3分の1未満であってはならない」とされています。取締役会の外部に、監査委員会、報酬委員会、指名委員会があります。これにリスク委員会を持つ会社もあります。銀行でもリスク委員会をもっていない場合があり、これがリスク・マネジメントの分野でのひとつの論点になっています。各委員会の委員長と構成員の過半数はNEDからなります。

このような取締役会レベルでのコーポレートガバナンスの制度を念頭において、主要な論点を見てみます。

【NEDの役割の重要性】
ウォーカー・レビュー最終提案書の取締役会の機能と役割の分野では、多くの部分をこのNEDの機能と役割について割いています。つまり、今回の金融危機の反省から、BOFIの取締役会において独立した外部の監視を強めることを意図しています。その中で論じられている重要な点は次のようなものです。
NEDは社外(会社を離れてから5年以上経つこと)の人間でなければなりませんが、ビジネスの戦略の核になるものがリスクマネジメントである銀行のNEDとして、銀行業の相当の経験が要求されるだけでなく、就任時およびその後の定期的な研修・トレーニングが必要であると強調されています(提言1:14p)。提言1に関する議論の中では、しかしながら、BOFIの取締役会が過度に専門化することに対して注意を促しています(45p)。
また、NEDの要件である専門的知識に対する重要性を考えると、FRCの統合規程の独立性の要件、「会社を離れてから5年以上経つこと」や、NEDの任期である「9年ルール:3年3期」に対して柔軟性をもってもいいのではないかという議論をしています(44p,と45p)。
さらにNEDが仕事に割く時間については、金融危機の2年間を除くとBOFIのNEDが割く時間は年間25日程度でしたが、これを30日から36日までに引き上げ、任命状に明記することを提言しています(提言3:14ページ)。

【チェアマンの役割の重要性】
NEDと同様にチェアマンの役割についてもさらに強化することを目指しています。特に、NEDと同様に、仕事に割く時間について、チェアマンの仕事に割く時間を、(個人の仕事全体に使う時間の)3分の2以上にすべきであると提言しています(提言7:15p)
チェアマンの能力としては、銀行業における経験だけでなく、過去に取締役会において指導力を十分に発揮した実績も必要であるとしており、特に後者の実績がないと銀行業の経験があってもチェアマンとして不十分であるとしています(提言8:15p)。

【取締役会の実績評価】
FRCの統一規程では、「取締役会は、取締役会、各委員会及び個々の取締役の実績について公式で厳格な評価を毎年行わなければならない」とし、ガイダンスで「取締役会は、年次報告で、取締役会、各委員会及び個々の取締役の実績評価が上級社外取締役によってどのように行われたかを記載し、個々の業務執行取締役の意見を勘案してチェアマンの業績評価をすることに責任を持つ」と補足しています。しかし、すべての取締役会がこれに十分でまじめな注意を払っているわけではないという現実に鑑み、この点を強調し、「毎年の内部評価とともに、2年または3年に一度、外部による評価を行い、公表する」ことを提言しています(提言12:16p)。

この取締役会の機能と役割は、その他の3つの分野(機関投資家の役割、リスクマネジメント、報酬)に深く関連しています。今後その都度、改めて各テーマに関連づけて説明しますが、この提言の中で注目したいのは、日本では、一般的に社外役員(取締役及び監査役)の独立性が強化されようとしているのに対し、専門性と独立性のバランスをどうとるかという点に関し、ウォーカー・レビューでは提言にこそ盛り込まれなかったものの、独立性より専門性を重視するという姿勢が見られる点です。但し、チェアマンについては、専門性と同等に指導力が重視されており、提言の中に盛り込まれています。
取締役会等の評価、特に外部機関による評価については、2009年の中間報告に対する意見は肯定的であった(63p)ということですが、良い悪いは別にして、このような慣行は日本では生理的拒否反応にあうのではないでしょうか。

(文責:安田正敏)

なおウォーカー・レビューの原文は英国財務省のホームページの次のURLからPDFファイルでダウンロードできます。

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