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ウォーカー・レビュー(4)リスクマネジメント  安田 正敏

2010年01月15日
ウォーカー・レビューのリスクマネジメントの分野での提言は、組織論に終始しており、そのような施策で今回のような金融危機を効果的に防げるかどうかという点については極めて疑問です。リスクマネジメントに関する施策については、金融機関の業績についてリスク要因をどのように反映させ、リスク調整済業績をどのように評価するかという点が最も重要であると思います。
BOFI(Banks and Other Financial Institutions:銀行及びその他の金融機関)が、リスクマネジメントの分野で他の産業と際立って異なる特徴をもつのは、リスクの監視やマネジメントが金融リスクの裁定やレバレッジの有効な活用などの戦略的な目的に深く係っている点です。しかも、BOFIがリスクマネジメントに失敗して破綻した場合、信用メカニズムという経済・産業の基盤の破綻に波及し、納税者に対しても多大な負担を強いることになるのは1昨年来からの経験が教えるとおりです。この点、株主の下方サイドのリスクは投資金額に限定されています。このため、BOFIがとる金融リスクに対しては、政府その他の規制機関の監視と規制が将来もっと必要になるとしています。しかしそれだけでは不十分で、それに加えて、取締役会レベルでの金融リスクに対する厳格なガバナンスが不可欠であるとしています(p91)。

このような考え方を前提としているにも係らず、ウォーカー・レビューのリスクマネジメントの分野での提言は、次のような組織論に終始しています。

① 取締役会レベルでのリスク委員会の設置(提言23)。
② リスク委員会の構成について、委員長と委員の過半数はNED(Non-Executive Director:非業務執行取締役)であること、監査委員会の委員長およびCRO(Chief Risk Officer)がメンバーとなること(p95及び提言24)。
③ リスク委員会の役割として、資本や流動性に関する方針、取締役のリスク選考とリスク受容度などの高次元のリスク方針を定めること。日常的なリスクマネジメントはCROを中心とする会社レベルでのリスク委員会にゆだねること。
④ 外部のアドバイスを活用すること。
⑤ リスク委員会がアニュアルレポートの中に独立したリスク報告書を記載すること、

等です。
筆者にとっては、このような内容は特に目新しいものではなく、これらの施策で今回のような金融危機を効果的に防げるかどうかという点については極めて疑問です。特に、ロンドン取引所上場のFTSE100の中の銀行の50%しかボードレベルでのリスク委員会を持っていないという事実には驚かされました(添付資料9:このレビューのためにデロイットが2008年アニュアルレポートをもとに調査した資料)。
リスクマネジメントに関する施策については、金融機関の業績についてリスク要因をどのように反映させ、リスク調整済業績をどのように評価するかという点が最も重要であると思います。特に、今回のような金融危機が起きる前の状況、つまり銀行がROEを高めるためにレバレッジを高め、機関投資家はよりROEの高い銀行を選好していた状況においては、その業績に対して明示的にリスク要因を反映していく仕組みがなければ、ここで提言されているような仕組みをいくらつくったところで、今回のような金融危機を防ぐことは出来ないでしょう。

この観点では、次回紹介する取締役と高級幹部の報酬に対してリスク要因を勘案するという提言は、より実効性を持ったリスクマネジメントのように思います。

(文責:安田正敏)

なおウォーカー・レビューの原文は英国財務省のホームページの次のURLからPDFファイルでダウンロードできます。

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