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日本郵政:西川氏「辞任」プロセスの愚かさと斉藤氏起用のいかがわしさ 門多 丈

2009年10月30日
日本郵政の西川社長を「辞任」に追い込んだプロセスは日本郵政が会社であることを考慮に入れない暴挙である。いくら一人株主とは言え取締役会での経営執行に関する議論や指名委員会の開催もなしに実質解任したことは、政府自身が企業のガバナンスの考えをないがしろにしているというべきである。鳩山首相の責任も重い。
日本郵政の西川社長を「辞任」に追い込んだプロセスは日本郵政が会社であることを考慮に入れない暴挙である。いくら一人株主とは言え取締役会での経営執行に関する議論や指名委員会の開催もなしに実質解任したことは、政府自身が企業のガバナンスの考えをないがしろにしているというべきである。鳩山首相の責任も重い。従来から「(西川社長は)本来はおやめになるべき」と社外から圧力をかけていた。その首相が斉藤氏の起用については「前日の夜に聞いた」というのも内閣のガバナンスの点から言えばおかしい。

斉藤氏の就任も日銀総裁に武藤氏を起用することには「天下り」として反対した民主党の論理からするとやはり矛盾する。斉藤氏が財務省を離れてかなり経つとの論拠は武藤氏についても当てはまる。武藤氏は日銀の副総裁としてかなりの期間勤めていた。この間を「財務省のために働いていた」と考えるとすると、日銀の独立性にも疑問を抱かせる重要な問題だ。

新任取締役の顔ぶれから見ても亀井郵政・金融相は郵政を官営にする考えは明確である。
「市場原理主義」の破綻を理由とするが、これも理解が浅く議論不足だ。今回のグローバルな金融危機の問題は極端な個人の利益追求に走った経営者にあり、市場原理を貫徹するための企業のガバナンスが効かなかったことに問題の本質がある。官による経営の失敗は70年代の英国、ソ連の崩壊、旧国鉄、社保庁問題などの例を見れば明らかである。また巨大な金融機能を担う郵貯銀行をバーゼル委員会の規制の埒外に置く考えは国際的な不信を招くことは間違いない。

今回留任する奥田氏の今後の取締役会での行動もガバナンスの考えを整理する点でも興味深い。「株主が心変わり」したときに取締役はどのように機能すべきかという問題である。奥田氏は今まで取締役会で発言していたことと全く違った考えと行動をされるということであろうか。まずは今までの活動の総括も踏まえ郵政のミッションは何であるかを新取締役会で議論し、国民にも主体的に開示するべきではないか。

(文責:門多 丈)


コメント
3歩前進、2歩後退 p_hal | 2009/11/01 17:24

世の中の流れを観ると、たいていの事柄は「3歩前進、2歩後退」で、ジグザグに進むことがわかります。我が国の金融を「1940年体制」のくびきから解放し、市場化させようとする大きな流れに対して、逆流が始まったということでしょう。秀逸なブログがありましたので、添付します。http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20091025


投稿ありがとうございました 門多 丈 | 2009/11/16 20:09

コメントありがとうございました。斉藤氏の起用は巨額な財政赤字の国債引き受けに郵貯を活用するとか、亀井大臣が主張する中小企業向けの貸付強化に狙いがあると野見方もあります。また大きな民営化の見直しという点では社保庁(年金機構)問題も気になります。


Last Resort あさだ | 2010/02/16 13:32

金融危機、鉄鋼業界再編、JAL再建、トヨタリコール等々、民間部門による流血を伴う聖域なき原点回帰がキーワードである時代の中、やはりどうしても脱皮し切れないわが国の政府という構図があります。

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