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亀井発言とガバナンス 門多 丈

2009年10月26日
亀井金融・郵政大臣のモラトリアム(債務返済猶予)発言に銀行経営陣は戦々恐々の状況であるが、株主の頭越しでこの議論がされていることは看過すべきでない。
(永年の総合商社での企業金融・金融投資の経験も踏まえ、国内外の経済・金融事象について自分の考えることをガバナンスの切り口を入れつつ書いてみたい)

亀井金融・郵政大臣のモラトリアム(債務返済猶予)発言に銀行経営陣は戦々恐々の状況であるが、株主の頭越しでこの議論がされていることは看過すべきでない。

議論の発端である「銀行の貸し渋りが大量の中小企業の(黒字)倒産を生んでいる」という認識には実証的な分析が必要であろう。昨年来の倒産には過剰なリバレッジ(借入比率)で不動産に投資したが不動産価格の暴落で資金が回らなくなった新興ディベロッパー、事業の多角化と称し多額の不動産購入や非関連部門に多額な設備投資をした企業などが多く含まれていると見られる。また経済の構造変化の中でこの間売り上げが大幅に落ち込んだが、世界的な経済構造の変化の中ではその回復がほとんど望めない中小企業もかなり存在するのも実情である。

今回金融庁の発表した返済猶予法案では、銀行に返済猶予や金利の減免、返済期間延長など貸し付け条件の変更の努力義務を課した。3カ月ごとに「条件の変更に応じた件数と金額」を金融庁に開示することも義務付けるという。この制度にはモラルハザードの問題が潜在すると思う。数字作りのための安易な返済猶予や当初条件を厳しくしておきそのあと少し緩める「出来レース」を誘発するリスクである。

社外監査役として地銀の貸付け業務を見ている自分の経験からは「貸し渋り」はさほど実感しない。今年の3月決算での膨大な信用コスト(貸し倒れと不良債権の引当)問題でも明らかなように、銀行経営の課題は「貸すべきところには貸し、貸すべきでないところには貸さない」判断と管理のスキルをいかに磨くかにあると思う。銀行融資は企業という生き物(ゴーイング・コンサーン)への貸付けである。その成否はその企業のビジネス・モデルの有効性と将来事業が生み出すキャッシュ・フローとその確実性についての読みである。また節目ごとの回収や追加融資の適切な判断も重要である。

金融を所管する大臣が「苦しい人を助けるのが政治」との信条のみで行政を行うならば膨大な不良債権や本格的な貸し渋りの発生の事態が予想され、国民経済的な損失の発生の点からも由々しき問題である。

銀行経営とガバナンスの点から今回の問題を見ると、当初の亀井発言から想定された返済猶予の「強制」という事態となったならば臨時株主総会を招集すべきと考える。株主の権益に重大な影響を及ぼす事項だからである。総会の場では改めて銀行としてのミッション、経営の健全性、収益性のレベル(短期、長期両方の観点で)について議論する良い機会になるとも思う。

(文責:門多 丈)

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