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「白鯨」とコーポレートガバナンス(2) 安田 正敏

2009年10月28日
「(中略)ただ一人の船長がピークォド号を主宰する。―出てうせろ。」・・・この言葉は、まさに、「会社は誰のものか?」という論点をついています。
前回の記事で引用した「白鯨」のエイハブ船長とスターバックの口論は、コーポレートガバナンスに関するいくつかの重要な論点を含んでいます。その一つが、エイハブ船長の
「ただひとり神のみが地上を主宰したもう、ただ一人の船長がピークォド号を主宰する。―出てうせろ。」という言葉です。

この言葉は、まさに、「会社は誰のものか?」という論点をついています。「会社は誰のものか?」という問題は、コーポレートガバナンスの核心に触れる問題です。航海の目的と行き先、航海中の活動と生活の規範を船長だけにまかしておいていいものかという問題です。

「会社は誰のものか?」という問いかけは、様々な意味を含んでいます。

  1. 会社の資産は誰のものか?
  2. 会社の成果に対する請求権は誰がもつのか?
  3. 会社の経営権は誰がもつのか?

この3つの問いに対する整合性のとれた答えを模索することが、コーポレートガバナンスの問題を考えることに繋がると思います。

1の論点については、答えはかなり明白です。つまり現在の会社法では、会社の資産は株主のものであるといえます。

2の論点 に対する答えも自明のように思えます。当然、会社の成果である利益の配当に対する請求権は株主のものです。しかし、これを従業員の活動の成果に対する報酬を考えた場合、この答えはそれほど自明のものではなくなってきます。鯨油を売った利益で労働の報酬を受取る約束をしているピークォド号の乗組員にとって は、成果に対する請求権は株主だけのものではありません。

最後の3に対する答えも自明のように思えます。つまり、現在の会社法の規定では、株主の委託を受けた代表取締役、取締役(会)が実質的な経営権を持っています。(取締役会設置会社では重要な財産の処分及び譲受けを含む7つの項目については取締役会がこれらを決定することになっています。)この場合、経営者の 業務の執行を誰かが監視しなければならないということは誰もが理解していることです。しかし、誰が何の目的でどのようにして経営者を監視するのかという問いに対する答えは、それほど自明のことではありません。

現在の コーポレートガバナンスをめぐる議論では、その主たる理由は、株主の利益を守るためであるという論点に焦点が当てられているように思います。この点について、日本では、会社法により株主が選任した監査役がこの役割を勤めることになっています。しかし、2の問いに対する答えを広く考えると、従業員はどうなの かという問題を無視できなくなります。

この点については、民主党の新しい会社法案の考え方である、従業員による経営監視参加という論点もこれから議論されていくでしょう。これらの問題について引き続き考えて行きたいと思います。
 
(文責:安田正敏)

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