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J-SOX内部統制、1年目の結果は? 安田 正敏

2009年11月09日
金融商品取引法による財務報告に係る内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX法)について、初年度適用企業に対する東証の調査結果は、「内部統制の構築は、企業の業務プロセスの見直しと改善につながる」という結果を示しています。しかし、その効果を認める企業と認めない企業の差はどこでついたのでしょうか?
金融商品取引法による財務報告に係る内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX法)については、2009年3月期末を決算期とする企業が初年度の適用を受けましたが、その準備については2006年あたりから多くの企業が多大な時間とコストをかけ準備を進めてきました。その過程で、金融商品取引法によるこの規定は、適用される企業に多くの論争を巻き起こしました。筆者の経験に基づきざっくり二つの意見に分けると、一つは、内部統制の構築は企業の業務プロセスの見直しと改善につながるものであり、積極的に取り組んでいくという意見に要約されました。もう一つの意見は、内部統制の構築は企業に多大なコスト負担を課すものであり、このような規制は株式上場の意欲を殺ぎ、ひいては日本の株式市場の弱体化をもたらすという批判的な意見に要約されました。

この規制の初年度適用の結果についての調査が、この論争に対するひとつの答えを提供しています。東京証券取引所が、11月6日更新のホームページ上で公開したアンケート結果がその答えです。このアンケート調査は東京証券取引所のディスクロージャー部会が、「上場会社・機関投資家の意識実態調査」として、8月25日から9月16日にかけて、東証1部・2部・マザーズ上場企業1,416社を対象に行いました。その一部に「財務報告に係る内部統制報告制度について」というアンケート結果が公表されています。このアンケート結果の中で冒頭の論争に関する部分を拾い出してみましょう。

まず、この制度への対応開始から適用初年度の内部統制報告書の提出までの対応コストの概算ついては、23.7%、336社が1,000万円~3,000万円未満、全体の約8%の100社が5億円以上、このうち57社は10億円以上と、相当な費用を企業が負担した結果になっています。

一方で、この制度への対応の効果について、次の4つの観点で聞いています。その答えのうち、「効果があった」、「やや効果があった」という二つの答えの割合を足したものを括弧の中に示しています。

① 財務報告の信頼性の確保(73.7%)
② 業務プロセスの改善・効率化(69.6%)
③ リスク管理体制の確保(70.5%)
④ コンプライアンス体制の確保(65.3%)

したがって、このアンケート結果から読み取れる結果としては、財務報告に係る内部統制の構築・整備及び評価については相当なコストがかかったけれども、それは企業にとって財務報告の信頼性確保という本来の目的以外の効果、つまり、業務プロセスの改善・効率化、リスク管理体制の確保、コンプライアンス体制の確保という点で効果があったということになります。

残念ながら、このアンケートは費用対効果について直接的に聞いてはおりませんが、別の質問項目、「今後の財務報告に係る内部統制への取組みの方針」に対する答えの中で、572社(40%)が、「財務報告に係る信頼性や業務プロセスの効率性をより向上させる観点から、体制の充実を図りたい」、479社(34%)が、「適用初年度で十分な体制が完了したことから体制を維持したい」という前向きの回答をしています。この回答から判断すると、大多数の企業が費用対効果についても前向きに判断していると見ることができるのではないでしょうか。つまり、冒頭の論争の答えは、「内部統制の構築は企業の業務プロセスの見直しと改善につながるものである」という意見であったということになります。

内部統制への対応の効果について、肯定的な見解を示した企業と否定的な見解を示した企業との差がどこから生じたのかという点については、このアンケート調査では明確ではありませんが、筆者の見解では、恐らく経営者の取組み姿勢の差ではないかと思われます。つまり、規制に対して受身的に対応した企業と、経営者自ら業務効率改善のチャンスと捉えて前向きに対応した企業では、従業員の内部統制に対する理解度、業務プロセスの改善に取り組む姿勢などに明らかに差がつきます。まだ、1年目の結果ですから、これからの取組み方次第でより大きな効果を生むことが期待できるのではないでしょうか。
 
(文責:安田正敏)
 
付記:ここで引用したアンケートは、その一部を紹介した「財務報告に係る内部統制報告制度について」以外に、「四半期報告制度/四半期決算短信について」、「国際会計基準(IFRS)の適用について」、「業績予想の開示について」を含んでいます。
公開情報は次のURLから入手できます。

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