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黒田東彦氏に聞きたいこと 門多 丈

2013年03月12日
黒田東彦氏の所信表明での「何でもやる」との発言は、中央銀行総裁としてはきわどい発言である。資産買い取り基金での長期国債の日銀の積極的な購入は、国債バブルをもたらし銀行などの国債保有のリスクを高める。株式、社債、不動産などの証券化商品の大量購入もありうる日銀が、銀行の資産の健全性を監督できるのか。
デフレ脱却のために日銀の金融政策では物価目標2%が正式に取り上げられる。この間の議論で政治家にも日銀にも欠落しているのは、物価上昇を目標設定とすることの国民の痛みである。はたして物価上昇が国民にとって良いことであろうか。特に年金生活者にとっては深刻なリスクである。物価上昇で実質所得が下がるわけであり、国民負担増加の点からは消費税増税と本質的に同じ問題である。ファイナンシャル・タイムス紙の記事で面白い指摘があった、「仮に日本の消費者物価指数が1997年から年率2%のペースで上昇し続けていたとすれば、現在の物価水準は実際のそれよりも40%高くなっていた」と。

次期日銀総裁候補の黒田東彦氏の所信表明であるが、就任前から「何でもやる」とは中央銀行としてはきわどい発言である。ヘリコプター・マネーを主張したクルーグマン教授の考えに追随する考えであるのか。黒田東彦氏が次の二点をどう考えているのかも聞きたい。

  1. 黒田日銀では、資産買い取り基金で従来より長い年限の5、10年国債や超長期国債を買って行く方針と思われる。国債市場はそれを先取りしラリーしている。現在既に超低利回りとなっている国債を、日銀が買って行く合理性はあるのか。現在10年物国債利回りは0.65%となり、今や長期金利とは言えないレベルである。金利上昇リスク(物価目標は結果として名目金利の上昇をともなうはずである)やボラティリティ(国債の価格変動リスク)に対して、このレベルでの金利収入では正当化できない。今や通常の投資家は買うべきでない金融商品になっている。日銀のさらなる国債買い入れは、明らかに市場に国債バブルをもたらすであろう。金融界では金融機関(銀行や郵貯)や公的年金の国債大量保有のリスクが懸念されているが、その渦中で日銀自身が国債を大量に買い増す合理性はないと思う。

  2.  「何でもやる」金融政策では、日銀は国債のみならず株式、社債、不動産などの証券化商品を積極的に買っていく方針と考えられる。このような政策的な動機からの資産購入であり、購入する資産の質は二の次となるであろう。結果は明らかに日銀のバランス・シートの悪化である。このような行動は本来金融機関に許されるものであろうか。説明義務の問題でもある。今後日銀はどのような基準で銀行の監督、検査を行うのであろうか、銀行を監督し指導すべき基準の一つの「資産の健全性」を、さほど重視しない宣言しているのである。

安倍政権は名目で3%、実質で1%の経済成長を目指すと言われる。一方国債バブルで5年の実質金利がマイナス1.1%(5年物国債利回りから物価連動国債で想定される予想インフレ率を引いたもの)になっている。このように実質金利がマイナスとなっているのは、一般的には投資家などが構造的に経済成長を望めないと見ているからである。このギャップを埋めるのは簡単な話しではない。白川方明総裁が従来から主張していた、構造改革、潜在成長率の上昇の必要性を如実に示しているのである。

(文責:門多 丈)

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