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岩井克人著「会社はこれからどうなるか」でも深まらないもの 門多 丈

2009年11月10日
岩井東大教授の2003年同名著書の再版である。会社は株主のものでしかないとする株主主権論に対する批判が主な趣旨とも思える。議論の前提としての株主と会社の関係についての分析が面白い。会社でない八百屋の主人が店先のリンゴを取り上げて食べても(奥さんに叱られることはあっても)法律的には何もお咎めはないが、株主が会社の財産を失敬すれば犯罪になるとの説明は明快だ。
岩井東大教授の2003年同名著書の再版である。会社は株主のものでしかないとする株主主権論に対する批判が主な趣旨とも思える。議論の前提としての株主と会社の関係についての分析が面白い。会社でない八百屋の主人が店先のリンゴを取り上げて食べても(奥さんに叱られることはあっても)法律的には何もお咎めはないが、株主が会社の財産を失敬すれば犯罪になるとの説明は明快だ。株主であっても会社が法人として設立され、固有の独立した財産を持つ主体であるとの認識はガバナンスについて議論する場合にも重要となろう。 しかし著者の株主主権論批判を読んでもなお深まらないのは株主と従業員、債権者、社会などの他のステーク・ホールダーとの位置関係である。資本の出し手である株主が負う法律的、経済的リスクは他のステーク・ホールダーとは違う(利益の回収では劣後する)ことへの配慮はあまり見られない。また著者は伝統的なガバナンス論は「株主の利益に結びつかない経営者の自律的な行動をいかに規制するかに向けられていた」(197頁)と批判するが、今回のグローバルな危機はこの自律が働かず経営者のエゴが企業を崩壊させたとの認識から出発すべきではないか。またこの議論では株主の経営への期待が何であるか、具体的には非常に高いROEか、長期の安定性や企業の存続など、についての議論も深めるべきではないか。 取締役会について著者は「会社の利益を擁護するために、代表取締役を中心とする会社の経営陣の仕事ぶりを監視すること」(131頁)というがこの認識からは取締役会で企業 戦略を議論するロジックは出て来ない。著者のいう「会社の利益」をどう考えるべきかが、グローバルな経済危機(企業の存在意義が問われているともいうべき危機)にある中で我々が議論すべきことではないか。 (文責:門多 丈)

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