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とにかく説明(エクスプレイン)をしよう ~コーポレートガバナンス・コード有識者会議の議論について~ 安田 正敏

2014年11月27日
説明することを避ける傾向が日本の企業に強くあるということを考えると、今回のコーポレートガバナンス・コードにおいては「遵守か説明:Comply or Explain」から一歩進んで遵守した場合でも説明を求めるという原則に立った方が良いのではないかと思います。それが、スチュワードシップ・コードに基づく投資家のエンゲージメントに対して企業側からのコミットメントになることだと思います。この点からたたき台の「原則3-1.情報開示の充実」は重要であると思います。

1125日の第7回有識者会議において資料として2版目の「コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方に係るたたき台(以下、たたき台と言います)」が公表されました。初版より議論が煮詰まっており、独立社外取締役についても「2名以上選任すべき」、また会社の自主的な判断により、「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記(2名以上選任)にかかわらず、そのための方針を開示すべきである」などの評価できる内容になっています。

全体についての筆者の見方はパブコメ用最終版ができた後に譲ることにしますが、今回のコーポレートガバナンス・コードで重要な原則となっている、遵守するかそうでない場合には説明を義務付けるという原則「遵守か説明:Comply or Explain」について考えてみたいと思います。というのも第5回有識者会議の議事録を読むと、未だに「遵守か説明:Comply or Explain」に対する共通の理解が醸成されていないことが分かったからです。

「遵守か説明:Comply or Explain」は、英国、ドイツ、フランスなどの欧州のガバナンス・コードや英国法の流れをくむシンガポール、香港などのコーポレートガバナンス・コードに取り入れられている原則で世界標準となっています。この原則は、それぞれ固有の事情を持つ企業に一律にコードを強制することをしないで、目指すべき高い到達点をコードが示すと同時に、そのようなコードを採用しない場合にはその理由について株主に合理的な説明をすることを求めるものです。

この方法は、企業がコードにある何らかの原則を採用しない理由を企業の置かれている状況に基づいて株主に丁寧に説明することで、その企業のコーポレートガバナンスの状況について株主の理解を深めることを目的としています。これによって、企業と株主の間のコミュニケーションを促進することにもなります。この意味で英国のコーポレートガバナンス・コードには、株主が企業の説明を一律に否定的に評価しないよう求めています。つまり、企業の説明を単なる言い訳と受け取らないように釘をさしています。同時に、企業は説明を言い訳にしない努力が求められるわけです。これは、日本の企業社会にある「ひな型」文化ではなく、企業にとっても真剣な考慮が要請される難しい仕事だと思います。一方で、その説明が十分な説得力を持ち有効な枠組みや方法を提示していればそれがベスト・プラクティスのひとつとして認められるという可能性も持っているわけです。

しかしながら、この「遵守か説明:Comply or Explain」の目的とすることを理解していないことをうかがわせる発言が散見されます。例えば、次のような意見。

「コンプライ・オア・エクスプレインについてコンプライしない場合、エクスプレインすればいいということですが、『会社法の社外取締役を置くことが相当でない理由』のように、理由が書けないことをエクスプレインしなさいと言われると義務だということになってしまいます」

 この意見については、「理由が書けない」と言いきってしまうその時点ですでに企業にとって真剣な考慮をする努力をあきらめていることになります。したがって、外形的に取りあえずコードに従っておくかという行動になるわけです。その点については、同じ方が次のように日本企業の実態を的確に述べています。

 「したがって、(独立社外取締役の)人数を何人以上確保すべきという形式的なことを書くのは意味がないと思います。逆に、ベスト・プラクティスとして形式的なことを書くと、日本の企業は真面目ですから、各企業はその圧力でまずは形を整える方向で対応し、結果、稼ぐ力には結びつかず、最悪の場合はマイナスとなるケースも出てくることになります」

これでは、株主とのコミュニケーションの出発点にもなりません。

このように説明することを避ける傾向が日本の企業に強くあるということを考えると、今回のコーポレートガバナンス・コードにおいては「遵守か説明:Comply or Explain」から一歩進んで遵守した場合でも説明を求めるという原則に立った方が良いのではないかと思います。この原則に従えば、独立社外取締役の独立性の要件についても、あまりに細かな条件を設定するよりは各独立社外取締役の独立性について合理的な説明を企業に要請し、それが納得のいく説明かどうかを株主が判断するという側面を強めた方が効果的ではないかと思います(この点についてはたたき台では留保となっています)。また、たたき台ではいわゆる政策保有株式(株の持合い)についても原則1-4で開示と「主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明」を求めています。

もうひとつ次のような意見があります。

「もしコードがそういうことでベスト・プラクティスを示しましたと。それで100社あるうちの98%がエクスプレインした。そういうコードをつくることはものすごく私は抵抗があるのですね」

この意見については、筆者は次のように考えます。今回のコーポレートガバナンス・コードはOECDのコーポレートガバナンス・コードに沿って、各国のコーポレートガバナンス・コードを参考にしながら議論している訳ですから、これらの世界標準を参考にした日本のコーポレートガバナンス・コードに対してほとんど遵守する企業がいないという状況を想定することは、日本のコーポレートガバナンスの実態が世界標準から相当かけ離れたものであるということを世界に示すことを想定することになると思います。もちろん、日本の各企業の説明が海外の株主を含めた株主に十分納得してもらえるような説得性があればまったくそれは素晴らしいことだと思いますが・・・。

このように考えると今回のコーポレートガバナンス・コードでは説明の重要性を十分に強調すべきであると考えます。それが、スチュワードシップ・コードに基づく投資家のエンゲージメントに対して企業側からのコミットメントになることだと思います。この点からたたき台の「原則3-1.情報開示の充実」は重要であると思います。

 

(文責:安田正敏)


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Posted by 門多 - 2014年11月28日 14時40分
有識者会議第5回で冨山和彦様が「エクスプレインの困難性を言う人がいるが、ガバナンスのあり方は経営の基本の問題であり・・そんなことも説明できない人が上場企業の経営者たりうるか」と見事に切って捨てています。

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