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株価純資産倍率(PBR)とコーポレートガバナンス 安田 正敏

2018年10月15日
「PBR1倍割れ」はその株が割安株でもなんでもなくて、その企業の経営者が株主価値を毀損していることを示しているだけです。「PBR1倍割れ企業」から「PBR1倍以上企業」への転身には不連続的な経営戦略の変革が必要で、そのためには、取締役会の強力なリーダーシップとそれを可能にする適切なインセンティブ報酬が必要になってくると思います。一方で、PBR1倍以上企業においても適切な経営のモニタリングを怠れば、企業不祥事などによって、不連続的にあっという間にPBR1倍割れ企業に転落してしまうことも肝に銘じておくことが肝要です。
10月11日の日経朝刊の記事、「通説を疑え(4)『PBR1倍割れは割安』本当?」という記事に興味を惹かれました。記事は、通説として「1倍未満だと企業が仮に解散したら、株主に株価を上回る資産、つまり“おつり”が返ってくる計算になる」と紹介しています。これは全く馬鹿げた説です。記事はさらに、「日経平均が27年ぶりの高値をつける中でも、実は東証の4割が1倍割れている。投資家にとってお買い得だと思って資金を投じたはずなのにその状態が解消されないバリュートラップ『割安のわな』にはまっている」と続けています。上記の説を信じる人が、PBR1倍割れの株が割安だと思って投資したとしたら正に「わな」にはまったと錯覚してもやむを得ないことだと思います。
PBRが1倍を割れているということの本当の意味は、「1株当たり」を株式時価総額と純資産に換算して考えると、その会社の経営者は、純資産を活用して将来にわたって創造する企業価値(フリーキャッシュフロー)の現在価値の総和が純資産を上回るような経営をしていないと株式市場が評価しているということです。別の言い方をすると、例えば、1株当たり純資産4,000円の会社の株価が3,200円しているということは、その会社の純資産は、今の経営者が現状の経営を続けるならば1株当たり精々3,200円程度の価値しかないと評価していることを意味しています。つまり、この会社の経営者は株主価値を毀損しているということを意味しています。
一方で、PBRが1倍を上回る企業は、純資産の成長率が高まるにつれPBRは指数的に上昇することが理論的に示されます。これは、純資産の成長率が高まるにつれ株価が指数的に上昇することを意味します。ところが、PBR1倍割れの企業の場合、純資産の成長率と株価の上昇にはこのような関係は存在しません。これが、「割安株」と信じて投資した投資家が「わな」にはまったと感じる理由です。同時に、ここの記事にある「海外投資家は成長が続くと判断すれば、割高であっても、投資する戦略を好む傾向がある」という理由です。(この点についての詳しい説明は若干算数的な数式が必要なのでここでは割愛します)
さて、ここでコーポレートガバナンスの重要性が浮かび上がってきます。このPBR1倍割れ企業をPBR1倍以上の企業に変えるには経営戦略の抜本的な変革が必要になるということです。連続的な改革路線ではなかなかこれは達成できません。不連続な変革が必要になってきます。取締役会の強力なリーダーシップとそれを可能にする適切なインセンティブ報酬が必要になってくると思います。
一方で、PBR1倍以上企業においても適切な経営のモニタリングを怠れば、企業不祥事などによって、不連続的にあっという間にPBR1倍割れ企業に転落してしまうことも肝に銘じておくことが肝要です。
経営戦略の抜本的変革が重要であることは、この記事の次の引用からも明らかです。
「東証業種別指数(銀行業)採用83銘柄のうち、PBR1倍以上はセブン銀行とあおぞら銀行だけ。特に地銀は全行が1倍割れで平均は0.4倍だ。それでも投資家は『業績の劇的な変化がないと割安株とは言えない』(欧州系の投資運用会社のファンドマネジャー)とにべもない。」

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