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スルガ銀行事件と会計監査人の職業的懐疑心 門多 丈

2019年04月09日
スルガ銀行不祥事については会計、内部統制監査についての新日本監査法人の責任が余り議論になっていません。三様監査の点からも会計監査人が職業的懐疑心を持って監査を行うことが重要です。
スルガ銀行は昨年9月末に、シェアハウス・ローンの貸し付けなどで1,000億円を超える引当金を計上した。同貸し付けの延滞率は3割を超えていると言われる。同行の会計監査人EY新日本有限責任監査法人(以下「新日本監査法人」)は、事件が公になる直前までスルガ銀行の決算について監査報告で「適正意見」を出していた。それまでの監査で同行の財務内容についてなにも疑問を持たなかったのであろうか。新日本監査法人の関係者にこれについて質したが、スルガ銀行の「調査報告書」では何も触れられていないからとの返事があり唖然とした。「調査報告書」の範囲には会計監査人の責任は入っていない。会計監査人自身がスルガ事件で監査業務上何が問題であったかを検証し、今後の業務の改善に生かすように努めるべきである。

東芝会計不正事件などでの教訓は、職業的懐疑心とリスク・フォーカスによる会計監査の深堀りである。新日本監査法人がこの懐疑心を持ってスルガ銀行の会計監査を行ってきたかは疑問だ。短期収益至上主義の企業文化の下での不正リスクの可能性、長期間の家賃保証に頼る不動産融資の与信リスク、オーナー・ファミリー向け多額の貸し付けの不透明性などリスク・フォーカスで重点的に監査すべき点が多々あった。今後日本でも会計監査人の報告に関してはKAM(Key Audit Matters ; 監査上の重要事項)の開示が求められることとなるが、その関連でも本件を総括しておくことは有意義と思う。

スルガ銀行の貸出金残高3.3兆円(2018年3月末)の9割超が個人向け融資で、その過半がシェアハウス・ローンを含む投資用不動産向け融資であったと言われている。新日本監査法人はバランス・シートや収益構造の歪さを念頭に置いた監査を行なわなかったのか。長期の住宅ローンには資金面でのミスマッチ・リスクもある。シェアハウス・ローンは「かぼちゃの馬車」などの長期の家賃保証で保全されているが、資産の健全性の点から家賃保証会社についての企業審査を新日本監査法人はどのように行ったのであろうか。

シェアハウス・ローンの貸し付けはいくつかの支店に集中していた。支店往査も活用し融資審査業務のプロセスを監査し、サンプル・チェックをしていれば残高証明のための預金通帳などの書類の偽装も発見できたはずである。この点では新日本監査法人は会計監査の基本業務を怠っていた。監査法人は内部に監査品質管理審査委員会や意見審査部を設け、客観的な立場から監査業務を監督しているが、このチェックの機能も働いていなかったことも明らかである。

新日本監査法人はスルガ銀行の内部統制監査も行っていた。不正融資、書類の偽装が頻発し、荒んだ企業風土を考えると同行で内部統制が充分に機能していたとは言えない。これに対し新日本監査法人が適正との意見を出したことの責任も問われる。

スルガ銀行「調査報告書」では「不祥事の兆候を知りながら適切な調査をしなかった」などの理由で常勤監査役については善管注意義務違反と認定した。会計監査人にも同様な責任がある。「調査報告書」が出された段階で、公益社団法人監査役協会は会長名で「監査役等の最大の責務は『取締役等の職務執行』と『内部統制システムの相当性』に関する監査であり、その責務を果たすためには、不正等の兆候に直面した場合、躊躇せずに経営陣に対して毅然とした態度で臨む覚悟が求められます」と会員に警告した。職業倫理の面から評価すべき声明と思う。日本公認会計士協会も、会計士の社会的信任を維持するためにも本件で何が問題であったかを解明するなど然るべき対応をすべきである。
(文責:門多 丈)

※ 本記事はニッキンレポート2019年2月18日号に投稿したものです。

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