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今こそ地銀はリレバンを 門多 丈

2019年10月30日
地銀の経営・収益環境が厳しい中で、主体的にビジネスモデルや組織を再構築することが重要になっている。ありうる施策について所見を述べた。

マイナス金利や地域経済の停滞の中で地銀の経営環境は厳しい。表現は穏当ではないが「ゆりかごから墓場まで」の視点で、法人顧客のニーズを深堀し、融資、斡旋、アドバイスなどの幅広い金融サービスを提供できる銀行を志向すべきである。具体的には創業、成長、、事業提携、国際化、事業継承など会社のライフ・サイクルのそれぞれのステージで、その企業のニーズに合わせ企業の資本政策も含めた金融、戦略・事業コンサルティング、M&Aや企業統合、事業継承アドバイスなど多様なサービスを、効果的に提供するべきである。今後はGAFAなどのネットビジネスが取引や決済に関与し、ビッグデータを駆使し法人顧客を自らのプラットホームに取り込む流れが予想される。その対抗策としてもヒューマン・タッチの顧客戦略が地銀にとって極めて重要になる。

そのためには地銀の人事、組織戦略を抜本的に見直す必要があるが、人材の育成と活用、支店長機能の強化、支店などの現場と本部との効果的な連携の3つの施策に取り組むべきである。 

まずは法人顧客のニーズを嗅ぎつける(特に若手の)優秀な人材の育成と活用に注力すべきである。企業分析と企業金融のスキルを有し、デジタル化などの世の中の流れに敏感なセンスを持った人材の開発が重要だ。個人ごとのスキル・マップなどの人材データの充実も必要となる。企業経営との対話を通じて能力は磨かれ、知見は蓄積される。その点からは特に若手を抜擢し、企業経営と真剣な対話をさせることで能力開発のベスト・プラクティスをつくることが効果的である。 

支店長はユニバーサル・バンキング推進の責任者として、地元企業のニーズとサービスへの満足度を掴む要となる。経営の諸課題にいろいろ悩み躊躇している経営者の背中を押すのも支店長の仕事である。従来のような支店長のローテンション人事はあり得ない。それぞれの支店の特性と戦略に相応しい支店長人事が重要であり、支店長人材の適性の見極めと効果的な人員配置にも注力すべきである。若手の抜擢とヴェテランの活用の複眼的な視点から支店長人事を見直すべきである。 

法人部、融資部、支店支援部などの本部機能の見直しと再編成も必要である。現場の提案能力とソリューションの提供をバックアップできるプロフェッショナルな人材のプールとなるべきである。外部からの人材の採用やM&Aコンサルや企業投資ファンドなどの外部の専門機関との効果的な連携も考えるべきである。一方フィンテックやAIを活用し業務や事務の効率化も目指し、その中で中期的な特に非営業部門の人員見直しが必須の課題である。 

取引先企業の資本政策にも積極的に関わっていくことで、取引先の財務体質強化にも繋げるべきだ。従来地銀の成長途上の企業への投資はIPO期待のヴェンチャー投資的な取り上げ方が多かったが、企業の成長支援の有効な手段として取り組むべきである。エクィティ・ファイナンスが企業価値の向上の果実を得る唯一の手段であることを、銀行経営もしっかり自覚すべきである。一つの方策として地元の中堅企業の私募転換社債発行の支援がある。クーポン(利払い)収入の確保と共に、企業価値が向上した場合には上昇した株価で発行企業が買い戻するような仕組みも工夫し、キャピタル・ゲインを狙うべきである。このようなキャピタル・ゲインは「経営支援」の正当な対価として考える。超低金利の環境では適度に投資株式を保有することが銀行の資産ポートフォリオ戦略上は意義があるとの発想も必要だ。地銀はリスク管理を厳密に行いながらアセット戦略の有効な手段として、株式投資を活用すべきである。株式を含む銀行の資産全体のリスクを、分散効果も考慮しながらバーゼル協定のリスク・キャピタル計算の方式で管理する合理性がある。

※ 本記事はニッキンレポート8月12日号「ヒトの輪」欄に投稿したものです。


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