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コア・イシューを深堀りする 門多 丈

2020年06月30日

金融庁が「地域金融機関の経営とガバナンスの向上に資する主要論点(コア・イシュー)」を公表した。地域地方銀行のミッション、企業・事業戦略、取締役会の多様化、人事、組織などの議論を促すためのものだが、金融機関以外でもそれぞれの企業の取締役会で主体的に議論するためにも参考にもなると思う。


金融庁が「地域金融機関の経営とガバナンスの向上に資する主要論点(コア・イシュー)」を公表し、地域金融機関の経営との対話を始める。取締役会の実効性評価の中などですでに議論されているが、主要な論点が体系化されていることもあり地銀の取締役会で主体的に深堀りしていく意味があると思う。 

コア・イシューの冒頭は「経営理念」であるが、地域経済との共存が大命題となる。長期的観点で継続的に、収益性の見極めとリスク・テイクの在り方が議論の中心となる。現在コロナウィルス感染問題で地域企業は困難な状況にあり、長期的な観点から経営支援のアドバイスを行い、資金的に支えることが出来るのかの正念場でもある。

「地域社会との関係」で提起されている、「存立基盤としてのテリトリー、商域」の考えは有益だ。緻密にセグメントを分析し、重点地域、重点産業に焦点を当てる。大都市圏ビジネスについても、従来の県外ビジネスと位置付けを変えて差別化戦略を工夫すべきである。ヴァリューチェーン、サプライチェーンの発想で大都市圏企業と地元取引とのリンクを強化するとともに、それに繋がる有力なビジネスを地元で育成するというような発想が必要だ。地方創生に資するようなビジネス、例えば再生エネルギのベンチャー企業と提携し、小規模水力、地熱、バイオなどの事業を地元のビジネスとして育てることが可能だ。そのために地銀が投資銀行的な機能を持った地銀商社を設立するのも一案だ。 

「取締役会の役割」については社外取締役の活用が課題である。多様化の観点からも、企業家精神豊かな地元の経営者、グローバルな視点や企業金融の知見のある県外の人材の起用が重要だ。金融機関の特性として求められる取締役会での決議・報告事項が多いが、自由討議の時間を意識的に設けるべきである。そこでコア・イシューの各項目の議論も深堀りできる。 

「経営戦略の策定」では収益性・効率性や健全性の指標としてコア業務純益や当期利益に加えてROA,RORA,OHRなどがの基準として明記されたが、長期的な観点からこれらの基準で検証・評価すべきである。非金融収益で稼ぐビジネスモデルの構築も必須である。個人、法人取引の双方でアドバイザリー業務の強化が重要となるが、特に現今のコロナ感染の中でこそ、企業経営の核心に食い込み、中長期的な観点から事業の継続を支える術を探るべきである。この努力の果実を銀行としては、利鞘、フィー、株式のキャピタル・ゲインと多様なチャネルで利益に実現する発想で臨むべきだ。 

「経営戦略の実践」では、「コストとリターンやリスクとリターンのバランスの分析と、それに基づくポートフォリオの構築」の議論が問われている。従来の銀行経営はバランスシート戦略であり、ポートフォリオの発想が余りなかった。リスク・アペタイト・フレームワーク(RAF)の議論を踏まえ、資本のコストを勘案し、リスク・リターン、分散の考えでの資産ポートフォリオを構築すべきとの考えである。この議論の中では、長期的な企業取引戦略の中で地元企業への出資を含め株式リスクを合理的に取るべきことや有価証券運用の位置付けもより明確になる。

 「人材育成、モチベーションの確保」については、まずはオープンで活気のある職場をどう作るか、中長期的な観点から適正な組織・人員の規模と人件費をどう考えるかについて、社外取締役を含めて取締役会で認識を共有すべきである。女性の役員起用ではまずは管理職比率を上げることが重要だ。企業支援やアドバイザリーの現場やプロジェクトで明確なミッションの下で活躍する場を意識的に創出するとともに、育児・家事についても配慮した職場環境つくりを心がけるべきである。

※ 本記事はニッキンレポート2020年5月4日号「ヒトの輪」欄に投稿したものです。


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