ブログ詳細

スパコン開発と説明義務 門多 丈

2012年08月10日
蓮舫発言「2位ではだめなのですか」は暴論であった。真の産官学連携で国家戦略としてスパコン開発を進めるべきである。
産業界がスーパーコンピューター(スパコン)の利用を本格的に始めている。

--アステラス製薬は東工大の研究者と共同で創薬プロセスにスパコンを活用する。病気の原因となるタンパク質と強く結合する化学構造物(薬の成分)を、スパコンを使い効率的に設計するのが狙いである。

--第一三共は理化学研究所と組み、スパコン「京」で新薬候補の化合物の体内での作用についてのシミュレーションを行うプログラムを開発する。効率的に新薬候補を絞り込み、臨床実験までの期間の短縮を図る考えである。

--スパコン「京」を使用し心臓の機能や動作を分析するプロジェクトがスタートしている。心臓の組織や機能はきわめて複雑、微妙であり、従来のコンピューターの処理速度では解析できないと言われる。スパコンの計算で得た解析データを利用することで、心臓外科手術を効果的・効率的に行うことを狙う。

民主党発足時の「行政刷新会議」でのスパコン開発予算の凍結議論は何であったのだろうか。蓮舫発言「なぜ世界一にならなければならないのですか。2位ではだめなのですか」は余りにも有名になったが、いくら「事業仕分け」が政治ショーであったとしても暴論であった。それには国家戦略の視点もなく、合理性もなかったからである。

蓮舫発言の致命的な誤りはこのような技術開発についての理解不足にある。スパコン開発は、オリンピックで金メダルを目指すこととは根本的に違う。ムービング・ターゲットのゲームである。たゆまぬ努力の継続が要求されるのである。スパコンの計算処理能力が一位になっても数年のうちに、数百位に「落ちる」というのが現実だそうである。国として開発を取り上げる以上、そのような視点での覚悟と予算がいるのである。予算凍結に猛反対し、有力科学者達が「先進各国が国の威信をかけてスパコンの開発にしのぎを削っている。いったん凍結すれば他国に追い抜かれる」と発言したのも問題だ。技術の開発についての基本的な特徴を踏まえて反論すべきであったのではないか。

スパコン開発については幅広い学術的な可能性の広がりとともに、経済と産業の成長戦略を視野に入れた国家戦略として論ずるべきではないか。蓮舫発言にも有力科学者たちの反論にもその点がまったく欠落していた。特に計算処理能力が天文学的に伸びることのメリットを生かす観点から、産業面での応用の可能性とその技術開発の緊急性について言及されなかったのはまったく不思議なことである。米国ではスパコン開発に参入しているのは、研究所と企業が半々という。その点からはスパコン開発についての「事業仕分け」の議論に経産省が加わらなかったのは奇異だ。文科省がもっぱら対応したのは、縦割り行政の著しい弊害と言える。日本の国家成長戦略の観点からは、スパコン開発は国家戦略として真の産官学連携で進めるべきである。

(文責:門多 丈)

この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。

この記事に対するトラックバック一覧

サイト名: - 2019年6月26日 12時57分

タイトル:
内容:
URL:/blog/blog_diaries/blog/blog_diaries/receive/33/


こちらのURLをコピーして下さい

お問い合わせ先

一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会

ページトップへ