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コモディティ化の流れに抗して 門多 丈

2013年07月17日
ニコンやキャノンのデジタル一眼レフ高級カメラの販売が好調である。日本のメーカーの商品差別化・ブランド戦略での成功例である。日本の「ものづくり」戦略に示唆することも多い。
デジタルカメラ大手のニコンやキャノンが、デジタル一眼レフカメラ(デジカメ一眼レフ)の販売が好調で業績をのばしている。デジカメ一眼レフの中でも30万円台の高級品の売れ行きが良く、ニコンのデジカメ一眼レフ新商品「D800」は人気で供給が追いつかないという。デジカメ・ビジネス全体はコモディティ化し、競争が激化し価格低下が著しい。その中で両社の業績が好調なのは、商品差別化・ブランド戦略の勝利である。スイスの時計グループSwatchがブレゲやオメガなどの高級ブランドでの差別化、高価格戦略に成功し、高収益を上げている状況に似ている。

ニコンのデジカメ事業の歴史は、経営戦略の面からも興味深い。当初ニコンではデジカメ事業に参入するか否かで、社内の意見が真っ二つに分かれたという。当時のデジカメの技術の水準からは「おもちゃ」とも思われかねないデジカメの市場に参入することは、高級カメラのメーカーであるニコンのイメージを損なうと危惧する考えが強くあった。またソニーやパナソニックのようにカメラ・メーカー以外の有力企業の市場参入が予想され、激烈な競争が想定された。ニコンは光学メーカーの生きる道として、デジカメ事業開始を経営決定した。デジカメの出現は、フィルムが必要で無くなりうるという究極の写真技術の革新であると判断したのである。このような経緯もありニコンは商品戦略として高級品と普及品の両面作戦を取ったと記憶している。普及品のビジネスは、周知のようにそのあとコモディティ化、価格下落の嵐に巻き込まれた。

高級デジカメ一眼レフのビジネスは収益性が高い、カメラ本体の販売に加えプロ好みの高価格の交換レンズなどの付属品の販売も付いてくる。一眼レンズだけでもニコンやキャノンは60~70種のライン・アップになるという。このような一眼レンズの豊富な品ぞろえが必要なため、高級デジカメ一眼レフ市場の参入障壁は高い。カメラを買った顧客の忠実度も高く、囲い込みの効果も大きい。

これらのレンズの研磨は高度な職人芸の技術で、海外勢にはしばらく追い付けないレベルのものという。(この点でもスイス高級時計のムーブメント製造技術の強みと通じる)。これこそ日本の「ものづくり」の生きる道ではないか。このような高い技能を国内でしっかり継承していくために、マイスター制などの奨励も緊急の政策的課題となると思う。

(文責:門多 丈)

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