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経営の「不作為」の象徴:エルピーダ破綻 門多 丈

2012年04月17日
日本経済や産業の停滞はデフレが原因ではない。この間の企業戦略や経営判断の数多くの間違い、環境変化にスピーディーに対応できない企業経営の体質にも原因がある。エルピーダ社の破綻については、経営陣と経産省、スポンサー企業の不作為に責任がある。ソニーなど大手電機メーカーの巨額な赤字については、戦略や収益・コストの構造的な問題を取締役会でこれまでどのような議論をして来たのかの説明義務がある。
エルピーダ経営が4480億円の多額の債務を抱えて破綻した。同社はNECと日立のDRAM事業を統合・再編するために、1999年に設立された会社である。同社の破綻には、企業経営の企業戦略や経営判断の致命的なミスがある。坂本社長が「敗軍の将、兵を語る」的に語った内容を聞いて唖然とした。韓国のサムソン社がスマートフォンや i Pad の出現によるDRAM需要構造の劇的変化を想定し、それにマッチする仕様の製品を開発・製造する戦略を立て巨額の技術・設備投資をしたので、エルピーダ社は敗北したと総括している。このような市場・競争環境の大きな変化の中で、従来のPC仕様のDRAMの製造、販売に拘った同社の経営戦略のミスは明らかである。市場や競争構造の変化を読み、それに合った経営戦略と方針を株主に提示するのが企業経営の責任である。その遂行のために技術・設備投資の巨額な投資が必要であれば、このような前向きな資金を引き出すように資本市場や銀行団を説得するのも経営の役割である。

NECなどのスポンサー企業のエルピーダ社の戦略・事業への主体的な関与も見えないし、産業政策の旗の下に統合・再編をリードした経済産業省の取り組みも腰砕けになった。経産省の「威光」もあり同社の融資に応じた銀行団にとっては、銀行債務の切り捨てと経営陣の続投を内容とするDIP型の企業再生は納得の行かない結論であろう。経産省は今回水面下で進められている同社の米マイクロン社、台湾、韓国企業との企業提携(実質は彼らによるエルピーダ社の救済)を、当初構想した産業政策の中でどのように位置付けられるのかの説明義務もある。今回の破綻は同社の関係者すべての不作為がもたらしたと考える。

トヨタ自動車が車台の共有や部品の共通化を高め、開発、設備投資、生産の効率化を図り、製造原価の2割削減を狙うと発表した。朗報であり、クリステンセン教授の言う「破壊的なイノベーション」とも言えると思う。ただこの判断は以下の点において余りにも遅いのではないか。

1) インドのタタ社が30万円台の低価格車の開発、販売を発表した時に、自動車メーカーの経営者は今日の環境変化が読めたはずである。

2) 部品の共通化やモジュール化での成功モデルは、時計業界ではスイスのスウォッチ社の先例がある(詳しくは磯山 友幸 氏著「ブランド王国スイスの秘密」(日経BP社刊))。

3) EV(電気自動車)時代の到来では、コンポーネントや部品のモヂュール化は不可避の流れである。コストの2割削減の試みは素晴らしいが、円高・デフレの環境下で「これ以上乾ききった雑巾は絞れない」とこれまで言っていた経営者やそれに同調したマスコミの報道にも疑問を持たざるを得ない。

シャープの3900億円の赤字、パナソニックの3万5千人、NECでは1万人の人員削減など電機大手メーカーの業績はミゼラブルだ。TV,液晶事業での失敗やシステム事業などへのビジネスモデルの変換の不調があるが、企業戦略や経営判断での間違いと環境変化にスピーディーに対応できない経営の体質が主因である。5200億円の巨額な赤字と1万人の人員削減を発表したソニーの状況も深刻だ。ストリンガー前CEOの更迭には社外取締役が積極的に動いたと報道されているが、今日のような経営危機に至る前に経営・事業戦略や収益・コストの構造的な問題を取締役会でどのような議論をしたのか、株主などのステークホールダーに対しての説明義務があると思う。

(文責:門多 丈)

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