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「会社法制の見直しに関する中間試案」に関する意見を応募しました 理事会

2012年01月30日
「会社法制の見直しに関する中間試案」に関して「第1部 企業統治の在り方」の中の「第1 取締役会の監督機能」、「第2 監査役の監査機能」に的を絞って、一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会の理事会の名前と責任において意見を応募しました。中間試案についての我々の意見は、企業統治の実効性を保証するという観点から見た場合には、人間的側面の要素に十分配慮した法制のあり方が必要であるという基本的考え方に拠っています。
I. 基本的な立場

本「会社法制の見直しに関する中間試案」(以後、中間試案という)は「第1部 企業統治の在り方」、「第2部 親子会社に関する規律」、「第3部 その他」の構成となっているが、ここでは「第1部 企業統治の在り方」の中の「第1 取締役会の監督機能」、「第2 監査役の監査機能」に的を絞って意見を述べる。

II. 基本的考え方

企業統治は様々な利害関係者からなる企業の経営を執行する取締役及び取締役会が、十分な善管注意義務をもって経営執行をすることを保証する会社機関とそれを機能させるための仕組みである。しかし、取締役の責にある人々にとっては自らの活動を監督するための機関や仕組みを考え推進するということに対するインセンティブは相対的に弱い。このような状況の中で企業統治を機能させるためには、法律によってそれを補強することはどうしても必要であると考える。
一方で、企業統治は人間が行うものであるから、法律で定められた会社機関と仕組みがその目的とする機能を発揮することを保証するためには、企業統治を担う人間が企業統治についての深い理解とそれを機能させるための行動力を持つことが重要である。この要件が欠けるといくら法律で補強してもその実効性を期待することができない。また、企業統治に対して深い理解と実行力を持っていても、組織の中に置かれている状況によっては人間的な弱みがそれを貫き通すことを阻害する可能性もある。むしろ、企業統治を実効的に機能させることについては、この人間的側面の要素が強い。
従って、中間試案についての我々のコメントは、企業統治の実効性を保証するという観点から見た場合には、この人間的側面の要素に十分配慮した法制のあり方が必要であるという基本的考え方に拠っている。

III. 中間試案「第1部 企業統治の在り方」についてのコメント

1. 二人以上複数の社外取締役の選任を義務付けるべきである。また対象会社としては監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるもの)とすべきである。

企業統治の中心をなす機能は取締役・取締役会の監督(経営評価機能と利益相反の監督機能)を実効的に行うことであり、村社会的な企業文化をもつ企業が多く存在する日本の状況では、外部の目からその経営執行を監視する真に独立した社外取締役の選任を義務付けることは必須であると考える。中間試案では1人以上としているが、この目的を徹底するためには少なくとも2人以上の複数の独立を保証された社外取締役の選任を義務付ける必要があると考える。中間試案の補足説明によれば、この点に関して、会社法制部会において3人以上でそのうち半数以上は社外監査役の選任を義務付けられている監査役会設置会社においては、社外取締役の選任の義務付けは「規制として過剰である」との意見があったそうであるが、本来取締役会において議決権を持たない監査役(社外監査役を含む)に経営評価機能と利益相反の監督機能を期待することは無理であり、この議論は相当でないと考える。

2. 社外取締役及び社外監査役に関する規律(独立制の要件)の(1)社外取締役等の関係者の取扱いについては中間試案A案及びその対象期間の限定については就任する前の10年間とする案を支持する。さらに、独立性の要件には、東京証券取引所の独立役員の独立性の要件である、「当該会社を主要な取引先とする者若しくはその業務執行者又は当該会社の主要な取引先若しくはその業務執行者」、「当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家又は法律専門家(当該財産を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、当該団体に所属する者をいう。)」の2点を追加すべきである。これらの者に関する対象期間の限定については就任する前5年間とするのが妥当であろう。

冒頭で示した人間的側面の要素に十分配慮した法制のあり方が必要であるという基本的考え方に従えば、この独立性の要件は必要であると考える。

3. 監査・監督委員会設置会社制度は不要である。

この考えは、監査役会設置会社にとって社外取締役の選任の義務付けは「規制として過剰である」という考えから、社外取締役を義務付けるのであれば、社外取締役が過半数を占める「監査・監督委員会」を監査役会にとって変えたらどうかという案である。しかし、この案は「監査・監督委員会及び書く監査・監督委員は、それぞれ、委員会設置会社の監査委員会及び各監査委員が有する権限と同様の権限を有するものとする」ということを考慮すると、現状の委員会設置会社と併行しておくことで何か意味を持つ制度であるとは思われない。むしろ、中間試案の補足説明にあるように、「委員会設置会社については、指名委員会、報酬委員会を置くことへの抵抗感から、広く利用されるには至っていない」現状において、指名委員会、報酬委員会を抜きにした委員会設置会社をつくろうという案である。したがって、現状の制度に付け加えて新しい効用を生む制度ではないと考える。

4. 監査役の機能に関する「会計監査人の選解任に関する議案等及び報酬等の決定」については中間試案のA案、すなわち、「監査役(監査役会設置会社にあっては、監査役会)及び監査委員会は、会計監査人の選解任に関する議案等及び報酬等の決定権を有するものとする」を支持する。

現状では監査される会社の経営責任者がこの点に関する決定権を持っているが、会計監査人の経営者からの独立性を考慮すれば、A案は妥当な制度であると思われる。

IV. 追加すべき提案

1. 指名委員会の義務付けが望ましい。

冒頭で示した人間的側面の要素に十分配慮した法制のあり方が必要であるという基本的考え方に従えば、企業統治の人間的側面における弱さを補強する意味で指名委員会は非常に重要な機能をもつと考える。今回のオリンパス社不祥事などは密室での社長、役員人事の弊害であることを考えると、むしろ現状の監査役会設置会社においても指名委員会の義務付けを提案したいと思う。

2. 監査役会設置会社においては、監査役候補者の選定については監査役会が権限を持ちまたその報酬は開示すべき。

現状の慣行では監査役候補者は経営責任者が選定し、会社法の規定に基づいて監査役が同意するという形になっている。これでは、監査役が経営責任者に対して独立ではなく、冒頭の基本的考え方における人間的側面から見ると、物申さねばならぬ時になかなか発言できないという状況を生む背景となっている。
この点については、例えば、第3者機関に候補者を登録させ、彼らに対して会社法、金商法の知識を研修、認証して需要に応じて派遣する制度など工夫すれば、ビジネス経験豊富で、かつ独立性の高い人材を企業に供給することは容易となろう。
監査役の報酬については、会社法上、監査役の報酬は監査役会が決めることになっているが、現状はほとんどの企業で形骸化しており、これが監査役の独立性を危うくしているものの一つの要因になっている。したがって監査役の独立性を実質的に担保するためには報酬決定権を業務執行責任者から第3者機関に移し、業務執行部門から独立した機関の決定にゆだねることも検討すべきと考える。
また、監査役がその機能をしっかりと果たしているということを示すためには監査役の報酬の開示が必要であると考える。つまり、監査役の報酬が取締役の報酬に対して著しく低い状況は、その会社の監査役に対する期待度が低くガバナンスの重要性を軽視していることになる。

おわりに

中間試案の補足説明や日本監査役協会が、社外取締役及び社外監査役の要件の見直しについて、人材不足の懸念があるということを表明している点については、全く的外れな懸念であることを指摘しておきたい。追加すべき提案の2でも指摘したように、第3者機関に候補者を登録させ、彼らに対して会社法、金商法の知識を研修、認証して需要に応じて派遣するような制度を工夫すれば人材は十分に供給できるであろう。日本企業の村社会的共同体の垣根を取り払えば人材は山のようにいるのである。我々、一般社団法人実践コーポレートガバナンス研究会はそのような人材をプールし勉強会等を通じて日々研鑽を重ねており、いつでもこのような時代の要請に応えられるよう準備している。

(文責:実践コーポレートガバナンス研究会 理事会)

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