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オリンパス社事件と監査役の責任 門多 丈

2012年01月23日
オリンパス社事件に関しての「監査役等責任調査委員会」の調査報告書は、監査役の善良管理注意義務違反の有無について幾つかの局面に分け主に取締役の業務執行の監督・監視の責任の面から調査し結論を出している。報告書では監査役の責任については、社内と社外に分けて論じていないことにも注目すべきである。
オリンパス社事件に関し「監査役等責任調査委員会」の調査報告書が出された。第三者委員会、取締役責任調査会の報告書に続くものであるが、主に取締役の業務執行の監督・監視の面から、監査役の善良管理注意義務(「善管注意義務」)の責任を調査分析したものである。

「報告書」は事件を幾つかの局面に分けて調査し監査役の義務違反の有無の判断をしており、現実の事件に即して分析と考察であり将来の参考になるものとなっている;

  1. 損失分離スキーム(飛ばし)については、操作に直接かかわった取締役以外の善管注意義務が問われなかったことで、監査役の善管注意義務も不問になっている。太田元監査役については前任の経理部長時代に経緯を知る立場にあり、監査役としても業務監査権を行使して調査・中止させるべき注意義務があったと論じている。 

  2. 国内3社の株式取得については、株式を買い増し子会社化する際の取締役の意思決定について善管注意義務違反があり、監査役はこれに関し適切な業務監督を行っていないと結論している。株式取得の価値算定などでの情報収集、分析、検討が不十分であったとする。また監査役については、その以前からあずさ監査法人から当該企業の事業・企業評価には要注意と指摘されていたこともあり、その点からも善管注意義務違反と断じている。

  3. ジャイラス買収に関わるファイナンシャル・アドバイザー(FA)報酬(「報酬」)支払いについては、幾つかの局面に分けて責任を論じている。買収判断の取締役会では、議論の焦点が買収の是非であったこともあり、報酬支払についての検討がされてないことについて善管注意義務違反とはしていない。報告書は案件を継続的に監視する点での監査役の善管注意義務についての違反と結論している。具体的には、次の点を問題としている。

①あずさ監査法人の監査概要報告書の中で買収価格の内訳が出されたが、この中での報酬金額が取締役会でかつて承認された額を著しく超えていた
②事後的に行われたワラント購入権買い取り及び優先株発行に関する取締役の情報収集と分析不足について監査役の調査が不足していた
③あずさ監査法人から数回にわたり監査役に対し報酬が高すぎ、報酬額の妥当性・経済合理性について監査を実施すべきとの要請を受けていた
④2010年の優先株買い取りについてはかつて決議し取り消された経緯があったこともあり、取引の合理性や価格の相当性の判断について適切な権限を行使し調査しなかった
 
ウッドフォード社長解任の取締役会決議については、同氏の疑惑指摘の際には監査役は「飛ばし」の事実を認識していなかったとし、監査役の善管注意義務違反は問えないとする。この結論には大いに疑問がある。取締役会の席上でウッドフォード氏に一言の弁明もさせず解任したことは、コーポレートガバナンス上は重大な問題であったと思う。監査役はこのような異常な議事の進行について異議を申し立てるべきで、この点では明確な善管注意義務違反であると思う。
今回の「報告」でコーポレートガバナンス上注目すべき点としては、監査役については、社内と社外での責任の違いは考慮していないことである。監査役の注意義務の中心は取締役会での議論、判断であり、その面での取締役の業務執行の監督・監視については社内と社外にかかわらず同等の責任があるとの考えである。また今回の事件の経緯の分析でも分かるように、監査法人との緊密なコミュニケーションや監査法人の指摘や要請には真摯に応じ対応することの重要性も示唆する。

(文責:門多 丈)

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