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機関投資家の声が聞こえないオリンパス事件 安田 正敏

2012年01月13日
日本の多くの大企業の大株主である機関投資家のコーポレートガバナンスに対する姿勢は、会社法の制度変更を百万遍議論するより実践的にははるかに大きな影響力を持ちます。オリンパスの現経営陣を支持するにしろしないにしろ機関投資家はより明確に大きな声でこの前代未聞のコーポレートガバナンスの状況について意見を表明するべきだと思います。
オリンパスは1997年6月以降の歴代取締役44人の責任を調べていた取締役責任調査委員会が1月7日に提出した報告書を受け、8日に現旧取締役19人に対し総額36億1千万円の損害賠償請求の訴訟を東京地裁に起こしたことは広く報道されているとおりです。これは、会社の最高責任者を含む現職取締役に対して会社が提訴するという前代未聞の異常な事態です。

取締役責任調査委員会の報告書については、「全体としては妥当だが、ウッドフォード氏も解職に賛成した取締役の責任を認めておらず、議論を呼ぶ可能性がある」(国広正弁護士)と日経新聞(1月11日朝刊)が報道しています。また、オリンパスの情報開示の姿勢については同日の朝日新聞朝刊は、8日の損害賠償提訴には発表がなく現職社長の早期辞任を公表した10日に記者会見もなかった点について「企業統治に詳しい久保利英明弁護士は『当然すぐ開示し会見すべきだ。隠蔽体質がかわっていない』」と報道しています。
 
筆者が懸念するのは、このような一連の報道のなかでオリンパスの大株主である日本生命保険や東京三菱UFJ銀行、三井住友銀行など日本の機関投資家、銀行のこの問題に対する明確な声が聞こえてこないことです。ウッドフォード氏が委任状争奪戦を諦めたという報道の中でその理由の一つとして、「オリンパスの不正をただそうとする私たちの取り組みに、国内の大株主である機関投資家が誰も支援の声を上げなかったばかりか、不正を見過ごした現経営陣の続投を事実上黙認し続けている」というウッドフォード氏のコメント(1月6日朝日新聞朝刊)などを通じて間接的に聞こえてくるだけです。この間接的な情報から察せられるのは現経営陣が道筋をつけるまでは静観するという態度のようです。しかし、前出の久保利英明弁護士は高山社長の辞任時期について、「もっと早く辞めて当然。そもそも自分の会社に訴えられている社長に経済行為が行なえるか」(11日朝日新聞朝刊)と手厳しく指摘しています。

今回の不正はオリンパスの自己資本を1千億円以上目減りさせ、その結果株価も昨年10月13日の2,482円から約半値の1,270円となりました。株式そのものも監理銘柄となりオリンパスは上場廃止の危機にあります。このような企業のコーポレートガバナンスに対し、大株主である機関投資家から明確な意見が公にされないということ自体、日本のコーポレートガバナンスの現状を如実に物語っています。自明のことですが、そもそも彼らの投資資金は彼らの資金ではありません。生命保険会社は保険契約者に対し受託義務(fiduciary duty)を負っていますし、また銀行の経営者は株主に対し善管注意義務を負っています。また日本の多くの大企業の大株主である機関投資家のコーポレートガバナンスに対する姿勢は、会社法の制度変更を百万遍議論するより実践的にははるかに大きな影響力を持ちます。

機関投資家はどこかで囁いているかもしれませんが、現経営陣を支持するにしろしないにしろ機関投資家はより明確に大きな声でこの前代未聞のコーポレートガバナンスの状況について意見を表明するべきだと思います。サイレント・マジョリティを決め込むことができるような軽い責任を負っているわけではないことを自覚してほしいと思います。

(文責:安田正敏)

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