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経営戦略と資本政策を問われる欧米の銀行 門多 丈

2011年10月03日
リーマン危機後にROEが急減した欧米の銀行は、収益回復のために経営戦略の再構築と資本政策の見直しを迫られている。欧州の銀行はギリシャなどの国債保有による含み損発生よる過小資本問題から信用収縮に向かうことが懸念される。経営改革にあたっては銀行は本来のミッションたる金融仲介機能をどう果たして行くかを基本的命題とすべきである。
IMFはギリシャなど欧州の問題6ヶ国の国債保有によリ、欧州の銀行の含み損が21兆円あると報告した。この問題もあり欧州の銀行の過小資本問題やドルなど外貨資金の流動性不足問題が顕在化し、今後信用収縮に向かうことが懸念される。米国FRBやECB(欧州中央銀行)などが金融緩和のスタンスをとりマネーは過剰に供給されているが、銀行の「貸し渋り」のために資金が必要なところに行かない構造に陥っている。(過剰な資金が商品・穀物・エネルギーなどの投機に向っているが、それぞれの市場のボラテリティを増加させているだけである)。欧州の銀行では資本不足により公的資本の注入が今後予想され、英国、米国ではリーマン危機の「教訓」から銀行規制は強化されている。銀行が積極的に貸出を伸ばす戦略を取り難い環境になっている。

最近マッキンゼー社がファイナンス業界レポート(The state of global banking-in search of a sustainable model, September 2011, McKinsey & Company )で欧米の主要行の収益性や資本効率を分析し、経営課題についての提言を行っている。レポートによると2010年では銀行のROEは欧州では7.9%,米国では7.0% に低下している。先進国の銀行のPBR(株価純資産倍率)は2006年の2.0から1.0に激減している。グローバルに銀行に期待される資本コスト(ROE) は12%と試算されており、欧米の銀行経営者はこれを達成するためには経営戦略の構築と資本の効率的な運用が求めらる。

マッキンゼーのレポートでは経営戦略再構築のための3つのベクトルを提言している。

1) 資本の効率的な使用、2) 大幅なコストカット、3) 収益性の高い新規ビジネスの強化である。1) ではバーゼル銀行監督委の自己資本比率規則を意識した効率的なバランス・シートとオフ・バランス・シート戦略を勧めるが、かつての欧州銀行の積極的なアセット戦略とその結果としての低いROAについての見直しを強く求めているように読める。2) では2015年にROE12%を達成するためには全体で約20%のコストカットが必要と分析し、M&Aなどによるコスト構造の変革も有効とする。3) では企業や消費者のニーズに応じファインチューニングした貸付けや金融商品の提供を行うことで収益性の高いビジネスにすること、インターネット・バンキングの積極的展開で新規分野開拓を目指すべしと論ずる。

経営戦略の再構築に当たっては、銀行の本来のミッションたる金融仲介機能をどう果たして行くかを基本的命題にすべきと考える。マッキンゼーの提言する経営戦略再構築と資本の効率的運用の課題は、日本の銀行にも求められているものと自覚すべきとも思う。企業など金融の利用者もこのような銀行の戦略転換や意思決定プロセスの変化を注意深く分析し、主体的に対応する必要があろう。メザニン(劣後)ローン、シンジケート・ローン、証券化など、いわゆる市場型間接金融的な取引が多様に発展する環境が予想される。その機会をいかに利用者として生かし、資金コストを抑えリスクを管理するようにするかの課題があると思う。

(文責:門多 丈)

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