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郵政株売却に異議あり 門多 丈

2011年09月20日
復興財源として郵政株の売却が検討されている。現時点での郵政株の公開は郵政グループの企業構造やビジネス・モデルの面で、また政府が株式の3分の1以上を保有を続けることからのコーポレートガバナンス面での問題がある。
郵政グループの企業構造が株式公開に当たっては問題となる。今回の売却は国民新党が強力に推す「郵政改革法案」の成立と抱き合わせで議論されている。「郵政改革法案」では、郵貯と簡保の限度額規制の緩和と郵便局会社と郵便事業会社の統合が2本柱であるが、これは郵貯や簡保の金融収益で郵便局、郵便事業の赤字を補う構想であり、小泉郵政改革の完全な巻き戻しである。郵政株の公開に当たっては、このような構造が公開会社として適当かの議論が必要である。

郵貯・簡保事業の資産の大部分が国債(郵貯の場合は約170兆円の資産の約8割が国債となっている)であり、今後どのような事業を展開していくのか、融資業務や金融サービスなどの金融ビジネスのモデルが全く見えない。これらの分野でのビジネス・コンピテンスが郵貯・簡保にあるかも全く不明である。日本郵政のビジネス・モデルがバイアブル(存続の可能性と合理性がある)かの議論が、株式公開に当たっては必要である。野田首相が参議院の代表質問では、郵政株の売却に関して「現時点では郵政グループの事業経営の見通しが立っていない」と答弁せざるを得なかった。

福島原発事故の際に政府の過度な介入もあり、東京電力の経営の意思決定が阻害され、事故の対応も遅れた。政府が株式の3分の1以上を保有したままでの郵政株売却は、このようなコーポレートガバナンス問題を内包する。郵政株の売却は「郵政改革法案」の成立とは関係なく行えるはずだが、国民新党が「抱き合わせ」を主張し、横車を押しているという。株式の公開時点からこのような政治がらみの背景がある日本郵政社が、一般株主のための独立した透明性の高い企業として経営されるかには大きな疑問を持たざるを得ない。

株式市場や日本郵政の財務の実情に詳しい知人が語ってくれた。現在の日本株式市場では、銀行株はPBR(株価純資産比率)が0.6程度となっており、このようなプライシングの酷さの中で株式売却は行うべきではなく、簡単なのは日本郵政を3分の2減資し、政府に返還することで6兆円超を捻出すべしと。このような極端な減資の場合日本郵政が「過小資本」になるのではとの議論については、郵貯や簡保の保有資産の大部分が国債である実情からは「リスク・キャピタル」の不足の問題はありえないと彼は切り捨てる。

(文責:門多 丈)

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