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東電会社更生のすすめ 門多 丈

2011年07月08日
原子力損害賠償責任が未確定な中で東電の会社整理を行うためには、国が責任を持って損害賠償を行う国有化、Pre Packageを前提とした会社更生法の適用が有力な選択肢である。
東京証券取引所の斉藤惇社長が、東京電力は法的整理による再建がベターだという見解を述べ物議を醸した。斉藤氏の発言の真意は、実質債務超過となり株価が著しく毀損されている一方、銀行の貸付けや社債の債権の権利は全額保護する考えでは東電の株式を上場している意味はないと言う資本市場の立場からのものと解すべきであろう。

政府、民主党が東電の現状のままの存続、結果としての銀行の貸付けや社債の債権の権利を全額保護する立場に固執するのは、「原子力損害賠償法」の適用に於いて本件は飽くまで東電の賠償責任を基本とする立場が根底にある。銀行の貸付けや社債の債権の切り捨てをともなう会社更生の法適用することで、賠償責任を負う企業が消滅する(結果として国が損害賠償せざるを得ない)事態を、何としても避けたい、又、重要インフラ事業としての電力事業を安定的に存続させたいとの考えが政府・民主党にはあるのだと思う。

このようなデッドロックとも言うべき状況に対し、当研究会会員のKさんから以下のような興味深い提案があった。

「基本的には国有化Pre Packageを前提とした会社更生法の適用をすべきだと思います。」

Pre Package の内容としては、

  1. 100%減資
  2. 必要額を国が増資(一部償還可能優先株)
  3. 労働債権(含む、年金)については一部カット
  4. 電力債、銀行借入については一部乃至全部元利減免、リスケ
  5. その他の債務(燃料費等)については一部カット又は全部カット
  6. 原子力損害賠償は国が責任を持って前払いで行い、国有化した東電の将来のCash Flowを使って、結果的に吸い上げる。従って、原資は電気料金。(多少税金を使ってもよい)」

Kさんは国民経済的に重要な電力事業を新株主の下で、有限責任の箱を作りリスクを限定して事業ができるような体制を至急確立すべきときと考えている。この提案の画期的な意味は、本件の致命的な問題である「現時点では損害賠償額が確定していない」ために東電の会社整理ができないことへの解決策を示していることにある。会社更生法適用にあたっては、その時点で債権債務を全て確定し更生手続きに入ることとなる。その場合は巨額な未確定の賠償債権が切り捨てられてしまう(支払いすべき主体がなくなる)が、この提言はその問題を回避するとともに国の直接賠償責任を明確にし、原発関連賠償は東電並びにそのステークホールダーに負わせもする妙案である。

その際に懸念される問題として、

  1. このスキームは結果として、原子力損害賠償が他の債権に優先することになり、債権者からの抵抗が予想される
  2. 経営陣は官庁(経産省)の天下り又は電力事業の守旧派となる可能性がある
  3. 国有化により官僚組織になる

とKさんは指摘している。この問題についてはそれこそ政治のガバナンスを国民が徹底的に要求することで解決すべきと考える。

(文責:門多 丈)

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