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東電の株主総会に注目(2) 門多 丈

2011年06月20日
東電の財務諸表に会計監査人は「無限定適正意見」を出した。事業報告書には「継続企業の前提に関する注記」がされ、継続企業としての重要な疑義が生じている。東電の株主総会は経営責任を厳しく追及するとともに、原子力を含めた今後の東電の企業・事業戦略について真剣に議論する場となるべきである。
4月8日のブログでは、東電の3月末決算の財務諸表に会計監査人がどのような意見をつけるか注目すべしと書いた。6月28日の株主総会の招集にあたって開示された会計監査報告の中では新日本有限責任監査法人は「無限定適正意見」を出している。事業報告に記載された「継続企業の前提に関する注記」について「追記」で触れながらも、会社提出の計算書類(財務諸表)は当該決算期間の財産及び損益の状況を適正に表示していると意見表明をした。

株主総会に於ける経営責任とガバナンスについて議論の建てつけとしては、3つの報告書がある。会社(取締役会)が提出する「事業報告」、会計監査人の「監査報告」と監査役会の「監査報告」である。東電の「事業報告」の中では計算書に対し「継続企業の前提に関する注記」を加えた。原子力損害に対しての賠償責任の不確実性があるため、「財務体質が大幅に悪化し継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる」状況が存在していると注記した。一方継続企業を前提としているので、「継続企業の前提に関する重要な不確実性の影響」は財務諸表の計算上は反映していないと報告している。会計監査人と監査役会はこの報告を合理的な根拠ありとして、無条件に認めたのである。

(各報告書は http://www.tepco.co.jp/ir/soukai/soukai-j.html でご覧いただけます)

会社作成の計算書では賠償額は計上せず、原子力の安全確保・原子炉廃棄・使用済燃料棒保管などの災害費用については災害損失引当金として暫定的な見積もりしか計上していない。この計算書について、会社の状況を正しく反映する合理的な根拠がないとして会計監査人は「意見不表明」としてもおかしくない。未確定事項が財務諸表全体に重大な影響を持つと考えられるからである。「意見不表明」となると株主総会で直接株主に計算書承認についての賛否を問うこととなる。「意見不表明」の場合は、東電債は格下げ、銀行の東電宛貸付け債権は不良債権扱いになるなど東電の財務面での影響は甚大であった。

「事業報告」からは事故を適切に管理せず、企業を破綻のリスクに曝したことの経営の責任感はあまり感じることができない。また現在も進行中の事態についての危機感も乏しい。株主総会では経営とリスク管理の責任の詳細について厳しく問い詰めるべきである。私が質問する場合の論点は、

1) 原子炉の溶融(メルト・スルー)を知ったのはいつか。3月12日未明には分かっていたのではないか。その後も「安全」と言い続けた根拠は何か。

2) 放射能の拡散のリスクがあったバルブの開栓はどのように決定したのか。原子炉の爆発のリスクとの比較考量で判断したのか。

3) 原子炉への海水注入について原子炉廃棄コストの膨大さから当初経営としては躊躇し、効果的な冷却のタイミングを失したのではないか。

監査役にも今回の事故に関しての経営責任、業務執行・リスク管理についての考えと評価を、株主総会で聞くべきであろう。事業報告や計算書の監査だけで監査役としての責任を全ううしたことにはならず、株主の代表として経営の職務執行を監視すべき立場からの弁明を聴取すべきである。

総会では少数株主提案として、「原子力発電からの撤退」の趣旨での定款変更が議案になっている。取締役会はこの議案に対して「定款として定めるのは適当ではない」と反対している。原発の方向性はまさに電力会社としての経営・事業戦略の基本的事項である。定款の内容として議論する正当な根拠があり、取締役会はこのような「技術論」で対応すべきでない。企業価値の喪失、株価の暴落で甚だしいダメージを受けた株主が、本提案に対してどのように議決権を行使するかも注目する。 

(文責:門多 丈)

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