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震災によるサプライチェーン崩壊と企業経営 門多 丈

2011年05月23日
震災によるサプライチェーン崩壊は日本経済に大きな打撃を与えている。サプライチェーンの構築と運営が、企業にとっては経営レベルの重要な課題であることを明らかに示している。今回の事故はサプライチェーンについてのリスク分析不足と製造拠点や調達先の分散が不十分であったことに原因がある。
震災によるサプライチェーン崩壊は日本経済に大きな打撃を与えている。製造のためには30,000点ほどの部品や資材を使用する自動車産業などの製造停滞で、今年度のGDPにはマイナス2%のインパクトがあると言う。米国の自動車メーカーも日本からの部品や資材の供給が絶えて減産を余儀なくされている。

今回のサプライチェーン崩壊は日本の製造業の経営にとって、2つの深刻な問題をもたらす。一つは、生産の減少による売り上げや収益への減少である。もう一つは、部品や資材の海外の納入先メーカーが仕入れに関して「日本離れ」を起こすリスクである。これらの問題は、強固で柔軟性を持ったサプライチェーンの構築と運営が経営レベルの重要な課題であることを明らかに示している。

今回の事故はサプライチェーンについてのリスク分析不足と製造拠点や調達先の分散が不十分であったことに原因があると 考えるべきである。かつて情報化ブームの中でIT技術を駆使してのサプライチェーンの議論は盛り上がった。今回の自動車メーカーのトラブルは3次、4次下請けレベルの供給力喪失が原因とも言われるが、サプライチェーンのリスク分析でこのような問題が経営として把握されていたのであろうか。

日産は他の自動車メーカーよりも早期にフル稼働体制に戻れると報道され、その理由についてゴーン社長は「(部品調達などの)現地化を進めているのが理由」とコメントしている。製造拠点や調達先の分散はコストとリスクを伴うものであり、経営のリーダーシップが必須である。これに関してある塗料メーカーの幹部から興味深い話を聞いた。震災前から自動車塗装用塗料の化学品原料の仕入先の分散を購買部門に指示していたが、社内では技術部門を中心にこのシフトへの抵抗が強くなかなか進まなかったと言う。全体のコスト・ベネフィットやリスクを考慮し、安定志向・保守的になりがちな社内部門の背中を押す経営のリーダーシップが必要であるということではないか。

「日本離れ」のリスクについても戦略的に対応する必要がある。納入先のサプライチェーンに効果的に入り込むためにも、上述の自らの製造拠点や調達先の分散し態勢を一層充実することが重要だ。納入先メーカーの技術や商品開発段階からの連携を深め、デ・ファクト(先方にとって「使わざるを得ない」)の関係を作り上げることにも経営は注力すべきである。

(文責:門多 丈)

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